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東京地方裁判所 昭和29年(ワ)9991号 判決 1956年4月20日

事実

原告(中央信用金庫)は、「訴外昭和内外物産株式会社が被告にあて振り出した金額二百万円の約束手形を被告及び訴外松崎提次郎の各裏書及び拒絶証書作成義務の免除を経て所持するところとなつたので、満期に支払場所に呈示したが支払を拒絶せられたから右手形金並びにこれに対する遅延損害金の支払を求める」と述べ、被告の抗弁に対し、「原告が本件手形を悪意をもつて取得したことは否認する、訴外木村道蔵は原告の監事であるが同人が訴外進興商事株式会社の社長であることは知らない、原告は本件裏書を受ける当時松崎提次郎に対し金二百万円を貸付けたものである、被告主張のその他の事実は全部不知」と答えた。

被告(東北産業株式会社)は、「被告は訴外進興商事株式会社及び訴外昭和内外物産株式会社と共同で訴外山内興業株式会社より鉄材を買入れる契約をし、進興商事株式会社より現金百五十万円、昭和内外物産株式会社より同会社振出の金二百万円の約束手形、被告より訴外牛尾商店振出の金二百万円の約束手形をいずれも代金支払のために交付したところ、右牛尾商店が直接山内興業株式会社に対し右手形の返還を請求したため被告等買主は信用を失い右鉄材の売買契約は解除された。然るに山内興業株式会社はその受取つた現金百五十万円を被告に対する別口債権金百万円の支払に充当すると称してこれが返還を肯じないので、進興商事株式会社の嘱託で右売買の担当者であつた訴外松崎提次郎は周章し、本件手形を一時見せ手形として交付されたいと申出たので、被告会社代表者大江敏は右申出の趣旨に従い形式上裏書をしてこれを松崎に交付したにすぎず、何等債務なくして裏書したものであつて、手形債務を負担する意思があつたものではない。而して右会社の社長木村道蔵は原告の理事を兼ね右手形につき事情を知つて取得したものであるから原告の本訴請求は失当である」と述べた。

理由

証人の各証言を総合すると、本件手形は被告主張のような用途に使用するため訴外昭和内外物産株式会社より被告にあて振り出されたものであるが、被告の代表者大江敏は右会社の係員遠藤三郎及び訴外進興商事株式会社の嘱託松崎提次郎と同道して鉄板買付のため大阪に赴き売主山内興業株式会社にこれを交付したところ右売買契約は破談となつたに拘らず、進興商事株式会社の出金にかかる現金百五十万円を同会社に返還することができなかつたため、大江敏は松崎の返還要求を拒絶し切れず遂にその手中にあつた本件手形を裏書譲渡し満期前に金策してみずから支払う予定であつたことが認められ、甲第四、五号証の各一、二を右松崎提次郎の証言と併せ考えると、松崎はその満期前に現金化の必要があつたため右の関係で受取つた本件手形を原告金庫に持参して割引方を申込み、昭和二十九年九月二十二日中間利息金七千七百二十円を手形金額より控除して受取つたことが認められ、これらの事実から推せば、特段の事情の認められない本件においては原告が本件手形を悪意をもつて取得したとはいえないとして原告の請求を認容した。

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